2016年6月18日土曜日

出産


地湧社が創立以来出してきた月刊誌「湧」の1986年発行の第1号から、巻頭言を土日を除く毎日1編ずつ掲載していきます。

(月刊「湧」1992年5月号)

出 産


 助産婦の片桐弘子さんに出産の克明な連続写真を見せてもらった。大きな浴槽を使った水中
出産の臨場感あふれるみごとな写真であった。助手の助産婦さんの目で捕らえたもので、芸術
家や専門の写真家が撮ったものでないのがかえって現実感を伝える。この写真を見た私は、あ
る種のショックを受けたのである。
 私は四人も子供をもちながら、一度も出産の現場に居合わせたことがない。妻はいつも私を
留守番に置いて、1人で産院へ行ってしまうので、出産の場面というのは血にまみれた相当の
修羅場なのだろうかと勝手に想像して遠慮していた。ところが最近は、出産に夫が立ち合った
り、積極的に協力するということが三割にも及ぶという。これは時代の変化なのだろうが、一
人も立ち合えなかったことを残念に思っていた。ともかく、この写真は私にとって、まさに初
体験なのであった。
 かつてお産の場は不浄だといわれ、人目から遠ざけられた習慣の中にあったし、最近では、
神聖なる生命の誕生に夫が参加しないのは不自然だという意見もある。ところが、この出産の
写真はそのような私の先入観を一気に吹き飛ばしてしまった。そこには不浄も神聖もなにもな
い。ただ出産という感動だけが伝わってくるのだ。私は正法眼蔵の中の一節を思い出していた。

水かならずしも 本浄にあらず 本不浄にあらず
身かならずしも 本浄にあらず 本不浄にあらず
諸法また かくのごとし  (正法眼蔵)(MM)
                         1992年5月10日発行

(次世代のつぶやき)
残念ながら、片桐弘子さんの感動的な写真集『生まれる瞬間』は品切れですが、地湧社では自然出産の素晴らしさを伝える本がたくさんります。
一番最近の書籍は『メクルメク いのちの秘密』(岡野眞規代著)。普通の病院の出産から、自然出産専門の医院まで見てきた著者が、お産の素晴らしさを伝えます。
(2016年6月17日 増田圭一郎 記)