2016年6月10日金曜日

ヴェンチレーション(換気)


地湧社が創立以来出してきた月刊誌「湧」の1986年発行の第1号から、巻頭言を土日を除く毎日1編ずつ掲載していきます。

(月刊「湧」1991年11月号)

ヴェンチレーション(換気)


 毎年寒くなりはじめると気になるのは建物や乗り物の換気のことである。
 空気調節といえば温湿度のコントロールだけを考える人が多いのではないかと思う。実は、
密閉された建物や乗り物の中では塵埃、微生物(病原菌も)、炭酸ガスをはじめとするさまざま
なガス、臭気、煙などの夾雑物が増加する。温度や湿度は人間も感じるし機器も検知するから
調節しやすいが、空気汚染の方は感知も検知も難しく、ついなおざりにし易い。換気の基準は
定められているはずなのに、夜どおしたばこの煙が漂っているホテルが多い。最近の大きな建
物は密閉構造で強制換気の方式であるから、管理が徹底していないとすぐに汚染する。
 さて、我々をとりまく生命環境は、意識にのぽるとのぼらざるとに拘わちず無数の要素に支
えられている。五感だけでは不充分であり、感性や意識をフル動員しても、環境要素を操るこ
とは不可能である。それなのに限られた要素をとりあげて快適空間を作ろうとするから、積極
的になればなるほど多くを失う。冬を失い、春を失い、夏を失い、秋を失う。そして体を蝕む。
 どうも人間の積極的行為というものは、限られた条件や要素にとらわれ、他は切り捨てたり
忘却しがちになるから、全体のバランスを失うことになるらしい。恋人を求めて恋心を忘れ、
グルメを探求して味わいを忘れ、ファッションを追って装いを忘れ、建物を造ってすみかを忘
れる。
 都会の空気は汚れているが、大方の建築物の中の空気よりは外気の方がずっとましである。
窓を少し開けて風を待てばよい。(MM)
                         1991年11月10日発行

(次世代のつぶやき)
ロングセラー『自然流育児のすすめ』の著者、真弓定夫先生は薬を出さない、注射をしない医者で有名です。そのなかでもことさら言っていることは、外気と遮断されたところで子どもを育ててはいけないとです。
梅雨に入り蒸し暑い日が多くなってきますが、私はクーラーの効いた部屋より風通しのいい家が好きです。
(2016年6月9日 増田圭一郎 記)