2016年6月21日火曜日

追われる共生の地


地湧社が創立以来出してきた月刊誌「湧」の1986年発行の第1号から、巻頭言を土日を除く毎日1編ずつ掲載していきます。

(月刊「湧」1992年6月号)

追われる共生の地


 北海道の知床半島はまだ自然の原生林を残し、半島の入口付近でも野生の鹿やキタキツネに
たびたび出会い、幾種類もの小鳥たちの姿を見ることができる。ユースホステルの主人に海か
らの熊ウォッチングに行きませんかと誘われた。七〇パーセントの確率で、船の上からヒグマ
の姿をとらえることができるという。あいにくの雨降りで断念したが、ここは日本でも代表的
な野生の王国である。ナショナル・トラスト運動でも知られるように、町をあげて自然の保全
に力を入れている。自然センターの隣に特設された建物の中に、一〇〇平方メートル運動に参
加した人たちの名札がかけられている。知人の名前もたくさん発見して喜んだ。
 北海道は、広大な農作地である十勝平野も果てしなく広がる道東の牧草地も、実は数十年前
まではこの知床半島と同じように、原生林と野生の動物とアイヌの人たちが共生していた土地
なのである。都会からの観光客にとっては、原生林も牧草地も美しく開放的に感じられるが、
牧草地に住んでいる人たちは、樹木があり野生動物がたくさんいた頃のほうがずっと美しく安
らぎがあったと言う。
 伐採と開拓によって、広大な北海道の平地の樹木が僅かの間になくなったということは、す
でに当時から日本は木材を大量消費していたということである。その時代以上に消費が加速し
ている現在の日本が、外国の森林をどれほど大量に侵蝕しているか想像にあまりある。放蕩日
本が、国内はもとより外国の自然環境まで侵している償いを今後どうすればよいのだろう。侵
しているのは動植物だけではない。アイヌの人々をはじめ諸外国の先住民の生活にまで及ぶ。
地球環境サミットに続き、来年は国際先住民年である。(MM)
                         1992年6月10日発行

(次世代のつぶやき)
ナショナルトラスト運動を知ったのは大学生のとき。ちょうど大石武一さんが環境庁長官で尾瀬の保護などが話題になっていたときです。知床の100平方メートル運動も盛んでした。
あれから30年以上たって用地買収が終わり、これからスタートです。200年計画。どんな原生林になるのだろう。
行ったこともないのに、数百年前の択捉島などを彷徨う夢をよく見ます。
どこまで行っても北の原生林。
(2016年6月20日 増田圭一郎 記)