2016年6月13日月曜日

本流


地湧社が創立以来出してきた月刊誌「湧」の1986年発行の第1号から、巻頭言を土日を除く毎日1編ずつ掲載していきます。

(月刊「湧」1992年1月号)

本 流


 鳴門海峡の渦巻は潮流の変化によって起こる。大きな船の上から見ていると、大小の渦巻の
ほかに大きく逆流する海流があるのがわかる。東欧の変化や日本の政治経済の現状は、この渦
流に翻弄されている舟の姿に似ている。
 三年前にリトアニアを訪ねた折、この国の有名な予言者が二年後の一九九一年に独立すると
予言していた。半年後にベルリンの壁がなくなるなどとは考えもしない時で、とても信じられ
ないことであったが、翌年の九〇年には独立を達成してしまいそうな勢いになった。それでも
独立したのは予言通りの九一年であった。このような潮流の変化は、みる人がみれば明確にみ
えるものなのだろう。
 ソ連邦解体のきっかけを作ったのは、チェルノブイリの原発事故とそれから始まったグラス
ノスチだといわれる。このような大きな潮流をつかむためには、共産主義が権威を失ったとい
うより、近代文明社会の構造そのものの権威が失墜したとみる方が的確だろう。ところが失墜
している近代社会の構造そのものを維持しようとして我が国の政府は、PKO法案や貢献増税
などを持ち出した。それを廃案にするとかしないとか、日本丸は渦の中を右往左往しているば
かりで、本流をつかめずにいる。この新年になってどんなに無謀な法案がでても不思議はない
ありさまだ。日本国そのものの存在を凝視しなければならない正念場である。
 さらに今年は国連が主催する地球環境サミットが開催される。この開催をめぐり、すでに先
進国と発展途上国の間に真っ向から主張の対立がみられる。潮流とは反対向きの先進国船団の
実像がくっきりと浮かび上がりそうな年であり、世界の正念場である。(MM)
                         1992年1月10日発行

(次世代のつぶやき)
硬直した冷戦状態から、90年代は世界が動き始めました。大きくは今もその動きの延長だと思います。このときの正念場がいまも続いています。世界が、エセ民主主義で踊らされていますが、いよいよ本格的に開かれた市民の時代が来そうです。来月の新刊『日本の民主的革命 ドイツのガラス張りの官僚制度から学ぶ』(関口博之著)は、ドイツのナチスやその前のワイマール憲法を引き合いに出しながら、実に見事に今の日本の状態を喝破しています。お楽しみに。
(2016年6月13日 増田圭一郎 記)