地湧社が創立以来出してきた月刊誌「湧」の1986年発行の第1号から、巻頭言を土日を除く毎日1編ずつ掲載していきます。
(月刊「湧」1987年6月号)
からだの復権
アメリカのある体育コーチは、選手にリラックス状態になる能力を会得させることによって、三十年間に三十七人の世界記録保持者を生んだ。また、ソビエトでもかなり前から選手養成にリラックス法が用いられていたらしい。これは先頃、東海大学体育学部の教授である今村義正氏からうかがった話である。このリラクゼーションとよばれるようになった選手養成法は、心理学の応用のほかに禅やヨーガの方法などが用いられているという。禅の本場である日本はスポーツを通して心身の解放術を逆輸入しているわけである。
我々はいろいろな知識をたくさん獲得してきたが、日常生活において自分自身のからだの内なる声をきく習慣をあまり持ち合わせていないのかもしれない。近代文明は心身二元論によって、金や支配力に置き換えやすい知的、精神的要素を優先し、からだというつかみどころのない自然に直接語らせることを妨げてきたからであろう。そのような意味で考えると、このリラクゼーションの研究や実践は、心身の解放によってからだが復権し、一人一人が自分自身の実力をいっぱいに発揮する一つの時代の幕明けを示すものであろう。
この春、日本仏教のふるさとである比叡山の閧山千二百年を記念して『からだは宇宙のメッセージ』と題した創作曲が奉納された。
私は、からだは宇宙のメッセージだと思う。だから一人一人が宇宙の意志の代表選手だと思っている。 (MM)
1987年6月10日発行
(次世代のつぶやき)
ストレスが溜まって身体が疲れてくると、以前はよく戸隠や丹沢の森を歩きました。最初少し早めに、小走りのように歩いていると、自分の呼吸と心臓の鼓動がだんだんとつかめてきて、同時に森の呼吸と一緒になった感じがしてきます。そのまま1日歩き回っているといつのまにか体調が戻っています。
その身体のチューニングは、まさに“からだは宇宙のメッセージ”を感じ取れます。
(2016年1月25日 増田圭一郎 記)