2016年1月22日金曜日

パフォーマンス百姓一揆


地湧社が創立以来出してきた月刊誌「湧」の1986年発行の第1号から、巻頭言を土日を除く毎日1編ずつ掲載していきます。

(月刊「湧」1987年5月号)

パフォーマンス百姓一揆


 先頃、熊本県の菊池養生園では、恒例の養生園祭が盛大に行われた。この「いのちと土と健康」の祭典は毎年一万人以上が参加して、この地方の名物となっている。
 しかし、今年の養生園祭は少し趣を異にしていた。呼びものの一つとなっている仮装大会の参加者がふくれあがり、二千人以上にも達してしまったのである。題して米騒動・百姓一揆仮装大会。思い思いに江戸時代の百姓姿に扮した人々が。手に手にむしろ旗などを持って国道を長蛇の列となって埋め尽くしたのである。
 今、日本の農業は海外からの安い農産物の流入で逼迫した時代を迎えている。殊に、日本人にとって最も大切な食糧である米は、貿易を自由化すると、十分の一の価格でアメリカなどの外国から輸入できるという。これは経済的視点だけから見れば工業立国の日本にとっては好都合のようにも見える。だから政府も、あるいはマスコミも、農業に対しては冷淡な態度を取っている。当の農民さえも、農業を目先だけの経済問題からとらえて、その将来を悲観している人も少なくない。このような時勢の中で、今回の養生園百姓一揆は、表面上の経済論理の罠を見破る重要な視点を与えてくれた。
 仕掛人の一人である養生園の竹熊宜孝所長はこう発言している。「米作りというのは単に食糧商品を作っているのではない。田作りは土を生かし、水を生かし、海をも生かしている。環境保全も含め総合的に見ると、よき農業は計り知れない経済効果をもたらしている。今こそ農業問題から、いのちある暮し全体を考える時だ」と。この熊本から上った野火が全国に拡がって禍福転じることになることを念じて止まない。 (MM)
                               1987年5月10日発行

(次世代のつぶやき)
医は食に、食は農に、農は自然に学べ、と日頃おっしゃる竹熊先生は、菊池養生園の診療所のいたるところに直筆の短冊を掲げておられます。「品物の山 癌 白米は粕 ともに意味あり」「農薬は農毒薬 虫はコロリと人間はじわっと」など読んで楽しく、ためになることばかり。それを書き文字そのままにまとめた『いのち一番 金は二の次』(竹熊宜孝著)は、そのタイトルこそ、いま最も肝に銘じたい言葉です。
(2016年1月22日 増田圭一郎 記)