2016年3月18日金曜日

薫風にのって


地湧社が創立以来出してきた月刊誌「湧」の1986年発行の第1号から、巻頭言を土日を除く毎日1編ずつ掲載していきます。

(月刊「湧」1989年5月号)

薫風にのって


 江の島の海を色とりどりのウィンドサーフィンが埋めはじめた。本格的にはやりはじめてか
ら十年そこそこである。今では中国の天津の河でも、ペルーのパラカス海岸でもやっている。
 かなり以前の話であるが、沖縄の珊瑚の海で波をきってみごとなセーリングをしていたイン
ストラクターに極意をきいたことがある。彼は技術の一つ一つについては語らなかったが彼自
身の体験を話してくれた。
 練習を重ねているうちにいつの間にか台風のさ中に挑戦していた。そこで得たものは自分が
風になるということであった。海の上にいることも風の中にいることも忘れて風になった
とき、考えたり、風をよんだり、操作したり、バランス感覚さえ無用の長物であった。そうな
ったとき、うまくいかないという怖れがなくなっていたそうである。
 彼は八重山諸島の小さな島に住んでいて、本島まで、風のある日はまっしぐらリュックサッ
ク背中にウィンドサーフィンで買物に行く。モーターボートでは珊瑚を迂回しなければならな
いので倍の時間を要する。車検もない、免許もいらない、ガソリンも不要、痛快この上ないだ
ろう。
 近年パラセール、ハングライダー、スカイダイビングなど風のスポーツが盛んになった。土
からの隔絶と同じように、現代は風から隔離された日常生活が行き過ぎた、その反動だろうか。
 季節風や上昇気流にのって飛び立つ渡り鳥や適当な風を待って花粉を吹き出す杉や松のよう
に五月の薫風の中に出てみよう。(MM)
                               1989年5月10日発行

(次世代のつぶやき)
今、セルフヒーリングカード「ポエタロ」(覚 和歌子著)製作の大詰めです。覚さんは〈千と千尋の神隠し〉の主題歌の作詞でも有名な詩人。このポエタロは、カードに書かれている詩を読むと自然とほんとうの自分自身に触れる、不思議なカードです。今回の「薫風」に合わせて、風のカードを紹介しましょう。《風》そよ風は 心のすき間をくれる 音楽を満たすための
(2016年3月18日 増田圭一郎 記)