2016年3月18日金曜日

生命力


地湧社が創立以来出してきた月刊誌「湧」の1986年発行の第1号から、巻頭言を土日を除く毎日1編ずつ掲載していきます。

(月刊「湧」1989年4月号)

生命力


 一本のトマトの苗に、果実を二万個も実らせたという水気耕栽培の実験農場を見学した。こ
こを主宰する野澤重雄氏に直接お話をうかがうことができた。
 まず土は、多種類にわたる病原菌など、植物の成長にマイナスになる要素を持っているので
いっさい使わない。また肥料としては、有機物を使わず窒素、リン酸、カリなどの無機物を与
えろというものである。すなわち、有機物はたとえて言えば完成した建物のようなものである
から、これを植物がとりこむには、いったん解体して体内で改めて建物をつくることになる。
その解体作業は植物にとって大きな負担となるわけである。このようなマイナス要素を取り除
いていったら、植物は限りなく成長し、タフで枯れることなく虫もつかずたくさんの果実を収
穫することができた。
 実際に見たトマトはまるで樹木のようで、大きな温室いっぱいに枝を張り、赤い実を数え切
れないほどつけていた。水中にあるその根は、大釜の中のうどんの如くぎっしりつまっていた。
宇宙のはかりしれない生命の力をとことん純粋に見届けてやろうという発想が、固定観念を破
った実験となった。生命力という目に見えないものをこのような形で見せてもらえたことは、
私にとって大いに刺激となった。
 さて、普通に畑で作られているトマトはなぜあの大きさなのだろう。きっとトマトの持って
いる莫大な生命エネルギーに拮抗する目に見えないもう一方の大きな力が働いているのだろう。
その成長阻害力を単なる害と見るか、あるいは何か意味あるものと見るかは難問である。
 一度読者の皆さんにうかがってみたい。(MM)
                               1989年4月10日発行

(次世代のつぶやき)
このハイポニカ農法で育ったトマトは、確かにビックリするほど巨大で立派ですが、どことなくさびしい感じがします。フランケンシュタインが作った怪物の悲しみと同じような感じです。
(2016年3月17日 増田圭一郎 記)