2016年3月10日木曜日

自然を守る道


地湧社が創立以来出してきた月刊誌「湧」の1986年発行の第1号から、巻頭言を土日を除く毎日1編ずつ掲載していきます。

(月刊「湧」1988年11月号)

自然を守る道


 山梨県の三ツ峠は優美な富士山を眺められる絶好の場所である。そこで古くから山小屋を営
む中村璋さんは、自然に対する独特の愛情の持ち主であると聞いて訪ねた。そして中村さんが
撮った山の草花のスライドをたくさん見せてもらいながら、大変ショッキングな話を聞いた。
 中村さんは数日前に、ある希少な蘭科の花を数十本、鋏で摘んできたという。その花は地味
な色あいであるが、群生して開花するので目につきやすく、愛好家や金儲け目的の人に根こそ
ぎ持っていかれて根絶やしになることがあるという。そこで、今が盛りの花を涙ながらに切っ
てきたというのである。
 このような植物は、偶然ともいえるほど微妙な環境のバランスの中で何十年何百年もかけて
発生成長したものであるから、移植しても決して長生きせず絶えてしまう。
 山梨県では十八種類の採ってはいけない植物を条例で決めた。一般的によく知られているも
のでは、コマクサ、アツモリソウ、ユキワリソウ、ムシトリスミレ、キタダケキンポウゲ、キ
タダケトリカブトなどである。
 しかし県条例ができても全国全県が歩調を合わせなければ、知らずに採取、栽培してしまう
こともあるだろう。実際私の知るところでも皮肉なことに、植物愛好家、自然愛好家に禁止植
物の保有者がいる。今、毎日二種の動植物が地球上から姿を消していると言われる。自然の仕
組みは人問の手ではどうにもならない、ということをみんながほんとうに知ることしか自然を
守る道はあるまい。 (MM)
                               1988年11月10日発行

(次世代のつぶやき)
山に分け入って、とてもきれいで珍しい植物を見ると、つい採ってきて庭に植えてみたくなります。
でも、まずは育ちません。仮に育ってもぜんぜん違う色の花を咲かせたりします。
いまは、庭のない暮らしなので、ささやかな野の花でも育てられる暮らしがしたいです。
(2016年3月10日 増田圭一郎 記)