2016年3月15日火曜日

砂漠に種子を蒔く


地湧社が創立以来出してきた月刊誌「湧」の1986年発行の第1号から、巻頭言を土日を除く毎日1編ずつ掲載していきます。

(月刊「湧」1989年2月号)

砂漠に種子を蒔く


 自然農法の提唱者である福岡正信さんがこのたび砂漠を緑にする種蒔き指導者として、イン
ド政府から招かれた。福岡さんは「その土地に緑が育つかどうかは人間が決めるのではなく、
種自身が決めるのだから、ただ種を蒔けばいいのです」と言う。
 氏は四十年以上も前に突然、価値などというものは人間の妄想なのだと気が付いて、人為を
次々に取り去る農業を試みた。その結果、耕さず、肥料を施さず、農薬を使わず、除草せず、
穀物や果樹野菜作りの革命的農法を確立していった。世をあげて近代科学農法を取り入れてい
く中で、自然のままの農業に没入していく氏の姿は狂気の沙汰に見えたという。
 福岡さんの自然農法の背景は無の哲学であり、あるときは禅の世界の人に共感を得ようと門
を叩いたが理解されず「ここは百姓の来るところではない」ととりあってもらえなかった。そ
の後、近年になって公害や薬害問題で自然農法自体は脚光を浴び、ひとつの社会的傾向をリー
ドしたがその哲学の本質はほとんど一般には定着せず、未だにアウトサイダー的存在である。
 ところが一昨年インドを訪れたおり、彼の地では日本と違って農業の専門家だけでなく、哲
学や宗教の分野の人たちが大いに関心を寄せ、ヒンズー教および仏教の教義とまったく一致し
ていることを理解してくれた。インドの人々は農法として技術的に多少の異論があったとして
も、その哲学において正しければ支持を惜しまないということを知って、氏は大変喜んだ。
 昨年、福岡さんの自然農法とその哲学に対して、アジアのノーベル賞といわれるマグサイサ
イ賞が贈られている。(MM)
                               1989年2月10日発行

(次世代のつぶやき)
子どものころ、福岡正信さんにお菓子の缶をいただきました。チョコレートかと思ったら、何と缶の中には、何十種類もの小さな種がものすごくたくさん入っています。野菜の種でした。空いている土地にどんどん蒔きなさいと言われ道ばたや街路樹の脇に蒔きました。

福岡さんは、さらに後年粘土団子に種を入れて大量に蒔くことを思いつき、世界各地で実行されました。インドでの活躍は、『福岡先生とインド』(牧野財士著)に詳しく出ています。牧野財士さんは、日本とインドの文化的架け橋として長年活躍、福岡さんのインドの活動を強力にバックアップされていました。(2016年3月15日 増田圭一郎 記)