2016年1月5日火曜日

伏流水


地湧社は、創立以来月刊誌「湧」を発行してきました。
「湧」は、単行本をはじめとする出版活動の宣伝をするとともに、地湧社の設立理念を明確にしていく広報的役割を果たしてきました。
30年目の今年、改めて原点を振り返り新しい一歩を踏み出すために、第1号からの巻頭言を1日1編ずつ掲載していきます。

(月刊「湧」1986年5月号より)

伏流水


 河川を下る水は、表面の流れのほかに地下をかくれて流れる伏流水という別の流れがある。
伏流水は音もなければ、見ることもできない。
 韓国に咸錫憲(ハム・ソクホン)という八十歳を過ぎた思想家がいる。咸氏は、数年前に世
界各国の精神指導者を招いて開かれた「九月会議」に来日して、独自の歴史観を語っている。
それは、人類の歴史の伏流水ともいうべき史観である。
 咸氏によれば、「韓国の歴史は、いわゆる栄光の民族の歴史というものはほとんどない、他国
から侵略され続けた失敗の歴史である。これをそのまま若い人に教えたのでは、悲観させるよ
うなものになってしまう。それで考えたあげく、ひらめいたものがあった。人類の救いとして、
即ち、意味として歴史をとらえ直せば、いじめられた民族の苦難の姿は人間の救いになる。恥
ずべき失敗の歴史が、かえって世界を蘇生させるような意味を持つ時代が來ているのではない
か。なぜならば、今まで続いて世界を支配しようとしていた大国主義が破れつつあり、もうこ
れ以上もち続けることができないことが明らかになっている。後ろの方に遅れていたものが、
廻れ右して逆の方に進めば先頭になる。」という。
 この「九月会議」の記録は“世界精神指導者緊急の集い”という副題をつけて思草庵から発
行されているが、主宰者である押田成人神父はいま、赤貧の中でこの英訳版の刊行の遅れに心
をいためておられる。  (MM)             1986年5月10日発行


(次世代のつぶやき)
押田成人神父は、2003年に天に召されましたが、遺された言葉はいまでも心に響きます。
地湧社では、押田神父の著作5点のうち、3点が品切で重版が出来ないでいます。
今年度は、このような隠れた名著をぜひ復刊したいと思います。それぞれ200冊から300冊くらいの事前予約またはご協賛をお願いして復刊していく仕組みを作りますので、ぜひご支援ご協力をお願い申し上げます。
(2016年1月5日 増田圭一郎 記)