2016年1月16日土曜日

土の生命


地湧社が創立以来出してきた月刊誌「湧」の1986年発行の第1号から、巻頭言を土日を除く毎日1編ずつ掲載していきます。

(月刊「湧」1986年12月号)

土の生命


 土が病んでいる。その何よりの証拠においしい作物が少なくなった。化学肥料や農薬を使用
して土壌中の生命環境が変化したからだろう。
 その昔、土壌に合成化合物を加える農業を考案した人たちの筆頭に化学者リービッヒがあげ
られるが、今その彼は土の生命に危機をもたらした張本人であると批判されている。しかし一
方リービッヒ擁護論もある。彼こそ経済利益のみ優先した当時の土壌成分の収奪農業を誰より
も憂えた人であるという。
 優れた人がすべてに配慮を加えて閧発した技術でも、ひとたび利益優先の社会に迎えられる
と必ずといっていいほど生命を損なう方向に走ってしまう。気がついたときはあとの祭りであ
る。その頂点が核エネルギーの問題であろう。
 あのチェルノブイリの原発の事故は周辺のかなり広大な土地や地下水を多量の放射性物質で
汚染してしまい、その後も被害を拡大しつつある。かつての原爆の実験で土地の放射能汚染と
白血病や癌の患者の発生との相関関係ははっきりしており、今度の汚染の量をこのスケールに
あてると、数年を待たないで恐ろしい未曽有の大被害がはっきり表れはじめるといわれる。生
物に被害のでる範囲は半径千キロメートルに及んだというから、狭い日本であの規模の原発事
故が一つ起これば、国土全域の生命環境は永久に失われ、高度成長を誇った日本の経済は破滅
して円紙幣は紙屑同然となろう。
 土が病めば人が病む、土が死ねば人が死ぬ。  (MM)
                               1986年12月10日発行

(次世代のつぶやき)
2014年に刊行した『ようこそ、ほのぼの農園へ』(松尾靖子 著)の出版前に福岡の糸島にある、ほのぼの農園を何度か訪ねましたが、松尾さんの自然農の畑は、生命力にあふれていました。それを感じたのは匂いです。山や川など大自然の中でもあまり嗅ぐことのない匂い。森の中に偶然できたひだまりの匂い。
(2016年1月15日 増田圭一郎 記)