2016年7月4日月曜日

人間の設計にミスはない


地湧社が創立以来出してきた月刊誌「湧」の1986年発行の第1号から、巻頭言を土日を除く毎日1編ずつ掲載していきます。

(月刊「湧」1993年4月号)

人間の設計にミスはない


 九十六才の天寿を全うされた故橋本敬三先生を偲ぶ会の案内に、故人自筆の挨拶文が同封さ
れていた。
  「御無沙汰致してをりましたが御気嫌如何お暮しですか。永い事温い御友情をもっておつき
合い下さいました事ほんとに有難うムいました。私事去る一月二二日命数を終りまして一足お
先に失礼して祖神の里に還りました。遺族の者共未だ当分御世話になる事でムいますのでよろ
しくおつき合願上ます。一々御挨拶やお礼やら思い出話等も申上たかったのですがそれは叶ま
せんので若し御心がムいましたらいろいろ書き残したものもムいますのでおひまの節にお目通
し下されば幸甚と存じます。生まれ育てられくらして来た日本の国は楽しい有難いところでし
た。どうぞ貴方様もお幸せに。左様なら おんころや」
 日付だけが印字になっていた。三月末に仙台市で行われたこの偲ぶ会は、大きな会場におよ
そ七百人の人が集まり、故人の思い出を語り合った。
 先生は外科医であるが、独特の生命観に基づく操体法という療法を築きあげた。この療法は
妙療法として一世を風扉し評価が定着したが、肝心の生命観、宇宙観については世間の受け取
り方に先生自身がもどかしさを感じていたような気がする。その考え方は「人間の設計にミス
はない。原始感覚の最快適感の座席に座ればいい」「頑張りでなく力を抜くこと、そうすれば体
全体が自然にバランスする」という徹底した、いたわりと人間讃歌の精神に貫かれていた。
 遺影を囲む祭壇は緑と菜の花、桃の花で埋まり、会場のいたるところに季節の草花が溢れ、
まさに極楽浄土であった。(MM)
                         1993年4月10日発行

(次世代のつぶやき)
とても素敵な挨拶文ですね。じっくりしっかり生き抜いた安心感が出ていて、とても真似はできません。操体法の考え方自体がそうだと思いますが、橋本先生の力まない、しかし、精神が落ち着ききった姿勢が感じられます。
(2016年7月4日 増田圭一郎 記)